千葉地方裁判所 昭和55年(ワ)505号 判決 1981年4月28日
原告 国内信販株式会社
被告 宮崎貴夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一五二万七、一八六円及び内金一四五万七、一九〇円に対する昭和五五年五月二〇日から支払ずみまで年二割九分二厘の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、割賦販売の斡旋を目的とする株式会社である。
2 被告は、昭和五四年九月一三日有限会社タカヤマ(以下「タカヤマ」という。)から乗用自動車一台(以下「本件自動車」という。)を代金金一五〇万円で買い受けた。
3 原告は、右同日被告との間で、被告のタカヤマに対する右代金債務を次の約定で被告に代つてタカヤマに弁済することを約した。
(一) 被告は、原告に対し、金四二万円を顧客手数料として支払う。
(二) 被告は、原告に対し、原告がタカヤマに対して弁済した代金債務および顧客手数料合計金一九二万円(以下本件立替金債権という)を別紙明細表のとおり分割して支払う。
(三) 被告が前号の支払を怠つた場合において、原告が二〇日以上の期間を定めて書面で催告しても支払に応じないときは、被告は期限の利益を失う。
(四) 期限後の損害金 年二割九分二厘
4 原告は、本件立替契約(以下本件立替契約という)に基づき、昭和五四年九月三〇日タカヤマに対し、本件自動車の売買代金金一五〇万円を立替払し、被告に対し本件立替金債権を取得した。
5 被告は、昭和五四年一一月二七日に原告に弁済すべき割賦金金五万三、三〇〇円を弁済しない。
6 原告は、昭和五五年四月二九日被告に対し、昭和五五年五月一九日までに右割賦金を弁済するよう催告したが、被告は右期限までに弁済しないから、同日の経過とともに、本件立替金債権について期限の利益を失つた。
7 よつて、原告は、被告に対し、本件立替金債権残として金一五二万七、一八六円(立替金残一四五万七、一九〇円および顧客手数料残六万九、九九六円の合算したもの)および内金一四五万七、一九〇円に対する期限の利益喪失後の昭和五五年五月二〇日から支払ずみまで約定の年二割九分二厘の割合による遅延損害金の支払を各求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は知らない。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち(三)、(四)を否認し、その余は認める。
4 同4の事実は認める。
5 同5の事実は認める。
6 同6の事実は認める。
三 抗弁
1 解除
(一) タカヤマは、原告から本件自動車の売買代金全額の支払を受けながら、履行期である昭和五四年九月三〇日を徒過しても、被告に自動車を引き渡さない。
(二) よつて、被告は、昭和五五年八月二五日タカヤマに対し、七日以内に右自動車を引き渡すべきこと、右期間内に自動車を引き渡さないときには、右期間の経過とともに被告とタカヤマ間の売買を解除する旨の条件付解除の意思表示をした。
(三) タカマヤは、当該催告期間内に、被告に対し右自動車を引き渡さない。したがつて、被告とタカヤマとの本件自動車の売買は、催告期間の昭和五五年九月一日の経過とともに解除された。
(四) 被告とタカヤマ間の本件自動車の売買と原・被告間の本件立替契約とは密接不可分の関係にあるから、本件自動車の売買の解除により、被告のタカヤマに対する代金支払債務が消滅するとともに、被告の原告に対する立替金支払債務も消滅するものと解すべきである。
2 同時履行
(一) タカヤマの被告に対する本件自動車の引渡債務と被告の原告に対する本件立替金の支払債務とは、同時履行の関係にある。
(二) よつて、被告は、タカヤマから本件自動車の被告に対する引渡義務が履行されるまで、右立替金の支払を拒絶する。
3 信義則違反
(一) タカヤマは、原告の代理店かつ原告の行つているKCオートローン契約の加盟店である。
(二) 原告と被告との代金立替契約には、本件自動車の所有権は、原告がタカヤマに売買代金を支払うことにより原告に移転する旨の約定があり、原告は、タカヤマに売買代金を支払つたことにより、本件自動車の所有権を取得した。
(三) 原告が右タカヤマの債務不履行を不問に付し、かつ、本件自動車の所有権を取得しながらこれを引渡さず、被告に立替金の支払を請求するのは信義則に反する。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実について
(一)のうちタカヤマが売買代金全額の支払を受けた事実を認め、その余の事実は知らない。(二)(三)は知らない。(四)は争う。
2 抗弁2の事実について
争う。
3 抗弁3の事実について
争う。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(原告会社の営業目的)の事実は、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
2 請求原因2(自動車一台の売買)の事実は、当事者間に争いがない。
3 請求原因3(原告・被告間の約定)の事実のうち、原告が被告に代つて、被告の債務を弁済することを約したことならびに、3の(一)(顧客手数料支払の約定)および(二)(立替金および顧客手数料支払方法についての約定)の各事実は、当事者間に争いがなく、同(三)(期限の利益喪失の約定)および(四)(損害金の約定)の各事実は、成立に争いのない甲第一号証の二によつて認めることができる。
4 請求原因4ないし6の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について判断を進める。抗弁1(解除)および同2(同時履行)については、事案に鑑み、判断を留保して、抗弁3(信義則違反)について判断することとする。
1 成立に争いのない甲第一号証の一および被告本人尋問の結果によれば、被告は、本件立替契約の二、三日前にタカヤマの営業所で本件自動車を見たうえでタカヤマの斡旋でローンを組んで買い受けることとし、本件自動車の売買を結んだこと、タカマヤの営業所には原告会社の代理店である旨の標示が掲げられ、かつ、本件立替契約契約書(甲第一号証の一)にはタカヤマの印が押されており、かつ、本件立替契約の保証人たる中島浩はタカヤマが選んだことが認められ、右事実によればタカヤマは原告の代理人として原告に対する顧客の紹介および立替契約締結の媒介を行い、かつ、タカヤマがなした自動車の割賦売買につき原告から割賦金の立替払を継続的に受けていたこと、並びにタカヤマは平素原告の代理店として常に原告に対し本件立替契約の締結と同種の行為をしていたことを推認することができ、右認定を左右する証拠はない。
2 また、自動車の所有権の帰属の関係について判断するに、被告主張の所有権移転の約定が存することは、前出甲第一号証の二によつて認めることができ、前記のとおり原告はタカヤマに売買代金を立替払したから、原告は約定に基づき本件自動車の所有権を(観念的には)取得したものと推認することができる。
3 そして、被告本人尋問の結果によれば、被告は、原告からオートローン契約書が送付されてから、数日後には、タカヤマに本件自動車の引渡を催告し、爾来何回となく交渉をしたが結局その引渡を受けることができなかつたこと、そしてタカヤマは間もなく倒産したことが認められる。
4 そこで、右各事実のもとに、原告の本件請求が信義に反するものであるか否かについて判断する。
前記認定のとおり、原告は、平素タカヤマを原告の代理店およびKCオートローン契約の加盟店として、本件立替契約または同種の契約を結び、これに伴うオートローンにより顧客手数料名下のもとにその利益を得ていたものであり、いわばその意味ではタカヤマを一種の自己の機関または支配下にある者として、顧客との間に各種の契約を結んでいたものである。また原告とタカヤマとの代理店等契約の関係からみれば、タカヤマの信用力については原告において十分調査することができ、これを容易に知り得べき地位にあつたことは明らかであるし、他方被告は、タカヤマとは通常の顧客の地位にあるにとどまり、特段の継続的な信頼関係を有する者ではない。そして、本件立替契約を結んだのは、タカヤマから本件自動車を購入するのみを目的としたのであり、約定どおり売買代金が原告からタカヤマに支払われたにかかわらず、その引渡を受けることができず遂にその目的を達することができなかつたものである(おそらく、支払われた代金は、倒産寸前のタカヤマの資金操りに使われたことであろう)。これはひとえに、タカヤマが被告との売買契約を履行しなかつたためであり、しかも、タカヤマは、売買においては当事者として、その売買目的を達するためのローンにおいては原告の代理店として(これを使者とみるべきか代理人としてみるべきかは問題はあるが、その法的性質はいずれであつても)いずれも関与し、いわば被告に対する関係では法的には二重の地位に立つたものであるが、経済的効果からみれば売買によつて被告への自動車の引渡という一つの効果を達成するために、タカヤマは被告と契約を結んだものである。
被告にとつては、この両者の地位を法的に区別することはあるいは可能であつたとしても、経済的には困難である。
このような関係のもとにおいては、タカヤマが本件自動車の引渡をすることなく倒産し、経営者である高山義也は逐電したため、本件自動車の引渡不能による損失は、単なる顧客にすぎない被告に負担させるよりは、その原因を作つたタカヤマを代理店としてまたKCオートローン契約の加盟店とし、信用調査をする機会が十分与えられており、かつ、この点に配慮を払うべきであつた原告に負担させるのが、公平というものであり、かつ、タカヤマの相手方である被告からはもちろん、本件紛争のもととなつたタカヤマを代理店等としていた原告からみても、信義則上同じ関係に立つものというべきである。原告は本件各契約と関連し、代理店タカヤマのした行為のうち、一方のみの効果を主張し、他方の効果(自動車の売買)--もつともタカヤマは代理店としてではなく、本人としてしたものであるが--を無視しているが、両者の関係は、法的形式的には別個の形をとつてはいても、実質的に経済的に密接な関係があり、しかも原告がタカヤマとの間に平素代理店契約などを結びタカヤマの経済的事情を把握し得る地位にあつたという従前からの関係を考慮するときには、タカヤマの関与した両者の契約について一方の関係のみを認め他方の関係を無視することは許されないものというべきであり、原告はタカヤマが代理店の地位で結んだ本件立替契約に基づく代金を立て替えて支払つた旨の効果を被告に対して主張することはできないものである。この意味で信義則違反をいう被告の抗弁は理由がある。
三 結論
よつて、本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 奈良次郎)
別紙<省略>